[Review on internal medicine, 1984. Electrolyte disturbance. I-4. Syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone (SIADH)].

はじめに SIADH(syndrome of inappropriate secretion of ADH)は 低ナ トリウム麺症を主徴とする病態 である.これを非SIADHの 低ナ トリウム血症と比 較した場合,SIADHで は水分摂取の制限が低ナ ト リウム血症 の治療上有 効であ るの に対 と,非 SIADHで は血清ナ トリウム値の正常化 に先だつ て,脱 水や虚脱等,液 きに危険を伴 う副作用を招 く点で,両 者の鑑別診断は臨床上大き な意味をも つものといえる. ,ラ ジナイム ノアッセイによる血中ADHの 測定が可能 となつて,各 種の低ナ トリウム血症に ついて血中ADH濃 度を検討すると, SIADHの み ならず非SIADHにお いて も多 くの症例 で血 中 ADH濃 度の上昇がみ とめられる.非SIADHの 低 ナ トリウム血症の発症や維持に際 とて も,血 中 ADHの 上昇は関与 していると考 えられる.低 ナ ト リウム血症の うち,SIADHと 非SIADHが どの様 な鑑別点を基準にして区分されるのが適切であろ うか.以 下.自 験成績をまじえて検討を加えたい 1. SIADHの 概念 生体における体液浸透圧の恒常性維持機構の う ち,下垂体後葉より分泌 されるAD}{は 腎集合管に 働いて水の再吸収を促進 し,血 清浸透圧 とその主 要な決定麹子である血清ナ トリウム濃度を低下 さ せる方向へ作働 している。一方,ADH分 泌は通常, 血漿浸透圧 と循環血液量の二大要因によつて決定 されており,血 漿浸透圧の上昇又は,有 効循環血 液量の低下はいずれ もADH分 泌を上昇させる.こ の様な生理学的背景をもとに, SIADHを 特徴づけ る条件は次の3点 に集約することが出来る. すなわち,1 低ナ トリウム血症があること,2 ADH分 泌が持続すること,お よび3ADH分 泌持 続が異所性ADH産 生腫瘍によるか又は,有効循環 血液量の低下によらないで下垂体後葉よりの放出 亢進による,の3点 である.こ れ らのうち,特 に 診断上困難が伴いがちであるのは3である.す な わち,低 ナ トリウム血症があ り,血 中ADH濃 度 の 上昇があつたとしても,ナ トリウム欠乏性低ナト リウム血症等,有 効循環血液量の低下を伴 う病態 では,む とろ適切(appropriate)なADH分 泌反応 であると考えられ,これをSIADHの 範畴 に含ませ ることは,治 療法の選択等の点で適切ではないと 考えられる. 通常,有 効循環血液量の低下がなく,と かも浸 透圧刺激が抑制 された低ナ トリウム状態でADH が後葉から分泌 されつづけるのは,ADH分 泌を調 節する受容体 液神経系,す なわち中枢神経系,頚 動脈洞 と洞神経,大 動脈弓と左心房一胸腔内迷走神 経への直接的侵襲が加わつた場合であると考えら